構想、提言、報告

神保町未来ビジョン
― 文化資源で豊かになる:神保町まちづくりモデルの形成と実現

2025年1月10日 東京文化資源会議

ビジョン提示の趣旨と背景

 神保町への社会的関心が高まっています。雑誌やテレビでの特集、従来の中高年男性に加えて外国人、女性、若者の来街者増加、活字文化議員連盟を始めとする出版・活字文化関連団体の活動の活発化など、その事例は枚挙にいとまがありません。その一方で、古書店の承継問題や古いビルの建替えなど、難しい問題も山積しています。また古書店の多くが閉店する夜間には、相変わらず人通りは少なくなり、飲食店等を含め街の文化資源が十分には活用されていません。

 東京文化資源会議では、神保町の豊かな文化資源のさらなる活用と発展を目標に、先ず神保町の夜の活性化に取り組み、そこで得られた成果・知見を昼間や週末にも広げていくことを考えています。10年先の神保町を構想し、それに賛同・協働していただける様々な人たちと構想する未来に向かって一歩ずつ進んでいきたいと考えています。

 多様な文化資源と夜間という時間資源の相乗的な活用を図る「神保町まちづくりモデル」は、首都東京に存する文化的なまちづくりの主要アーキテクチュアとなり、歴史的文化資源に富んだ全国の新たな都市計画モデルにもなると思われます。

 「神保町未来ビジョン」は、神保町の伝統の評価、現状把握と分析、将来の方向性、それを実現するための方策の4本柱から成ります。

ビジョン骨子

  1. 神保町の歴史的特性を文化資源の観点から尊重する。
    • 書籍だけでない文化資源が集中した特別な街
    • 学術施設、宗教施設、人材の集中:学びの伝統(学びの場の多様性)
    • アジアに開いた窓・アジアからの人材流入(事例:そこから育った辛亥革命)
    • 「神保町物語」のような歴史的特性をわかりやすく説明できるものが必要
    • 東京の中での「神保町」の特徴、位置づけ、立地のよさ(都内各ターミナルに近接)
    • 東京の特色ある他地域(アキバ、上野、谷根千等)とのつながり、街歩きの楽しさ
  2. 神保町の今を捉える:課題と可能性
    • 学術文化資源(大学等)の観点からは全国的には相対化(傑出した立場ではない)
    • 特色ある街並みの維持活用に係る課題の深刻化(事業承継、建替え、相続税等)
    • 飲食店、街並み等本の街だけでない多様性(ギャラリー、複合書店等の増加)
    • 外国人を含む観光地としての神保町への着目(その基盤としての文化資源の伝統)
    • 国内外へのアピール度の高まり(例『森崎書店の日々』26か国語に翻訳)
      →それをさらに高めるための裏付けとなる神保町の定量的資源価値を提示する必要(書籍の蓄積量など)
  3. 10年後の神保町モデルを創造する:日本社会へのインパクトと世界への「知のプラネタリウム」発信
    • このプロジェクトの「主体は誰か」を考えながら、あるいは形成しながら進めていく。
    • 昼とは違う夜の文化(文化資源を愉しむ新しいナイトライフ)の創造と多様な文化資源の緩やかなネットワーク化
    • 文化的街並み活用と文化資源に関わる異業種店の緩やかな連携、それを支える制度整備
    • ホール、劇場等多くの人が「夜に」集える場所の確保と仕組みづくり(ナイトメイヤーなど)
    • 多様な文化資源活用人材の育成(大学の再生と街が育てる機能の融合)と大学に限定されない学びの場の創出
    • プリントメディアとデジタル文化資源の交点づくり
    • 新しい文化産業・コンテンツ産業の創出
    • 神保町モデルの地方中核都市への波及と世界発信
  4. 3段階の実施フェイズと取組事項
    • 以下の2024年度~2033年度の10年間の取組においては、神保町文化発信会議、千代田区等関係機関との協議・協力を得ながら進めていく。
    • <当面の取組(3年以内)>
      • 調査による実態把握・分析
      • 各種パイロット事業の試行・結果分析と改善・日常化
      • 職種・年代等を超えた交流の場の創設と定着化
      • 神保町内異業種間の交流促進(場の設定)
      • 文化的街並み活用コンペの実施(学生、プロ):スポンサーの確保必要
      • zine文化の取り込み → 神保町zineフェスの開催
      • 『神保町入門』のような書籍・ガイドブック発行、あるいはzineシリーズ発刊
      • 神保町内在庫を対象にした書籍所在統合検索システムの稼働
      • これまで注目されてこなかった神保町内ギャラリーの明示化と相互連携促進
      • 税制、まちづくり設計等制度改革の方向性提示
    • <中期的取組(4年~7年)>
      • 明確な効果と対象となる根拠法を明示した国家戦略特区制度の導入(例:神保町の豊富な過去コンテンツや生成AIをフル活用するためのデジタルコンテンツを対象とした知財関連法など)
      • 文化資源関連異業種連携のイベント・事業の創出
      • 「ホンの映画祭(仮称)」開催(本に関わる全ジャンルのショートフィルム対象、まだ作られていない映画の予告編コンペ)
      • 小規模のホール、劇場、映画館等「夜の文化装置」整備の働きかけ、まとめ役としてのナイトカウンシル制度の導入
      • 地域コミュニティ紙の発刊(月刊を目標、当面季刊)(例:「Theatre Communication Magazine」座高円寺発行)→ あえて高級紙をめざす。
      • 神保町の文化資源を活用した新しいコンテンツビジネスの創業支援
      • 他地域からの多様な文化産業・メディア産業に関わる異業種事業者の移転促進と外国人による起業支援(サブリースの活用など)の企画・働きかけ
      • 文化的街並み活用コンペ優秀作に基づく開発案件の計画・実施働きかけ
      • 書店・古書店の夜間営業を支える協同組合の設立と夜間営業の部分的開始
    • <最終段階(8年~10年)>
      • 税制、都市整備計画、知財関連法規等制度改革、UNESCO文化遺産登録・文学創造都市申請など
      • 書籍関連産業の継続性担保(新しいビジネスモデルの創出)
      • 平日・休日、昼間・夜間を通じて神保町の街を楽しむ人の増加(例えば今の2倍の来街者:あくまで指標としてで目的ではない)と神保町全体での消費活性化(無料の博物館街にならないように、売上高も2倍以上に)
      • 地域、世界への文化発信(新たなコンテンツ創造と発信):神保町モデルの普及

<体制と資金確保>

 同時並行して、以上の事業を推進していくことのできる街の体制づくり(神保町タウンマネジメント組織:神保町ジモト会議の形成)に取り組む。但し、それは事業展開しながら徐々に形成していくもので、ある時設立総会を開いて設置するようなものではないと思われる。また各事業を進めていくための資金源についても多様な方法を模索しながら進める。

実態調査報告要旨

実態調査協力店

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