第1回 出版セミナー 「神保町と古本I−同族経営、持続力、そして古本ビジネスの本質」

出版セミナー
日時2024/10/10 18:30~20:00
登壇者スーザン・テイラー氏(ハーバード大学博士号、神保町研究)
参加者15名

▼登壇者発言概要

  • 今春神保町をテーマにPh.D.を取得したところ。このまちがなかったら博士号をとっていない。神保町は私を虜にするまち。
  • 米国の小さなまちの出身なので本屋へのアクセスは限られていた。驚いたのは、ハーバードの周囲にも古本屋が3軒くらいしかなかったこと。
  • 神保町は東京の中心にあるとても小さなまち。ここに約130の古本屋、いくつかの大手の新刊書店と多くの出版社がある。
  • 世界の他の都市の同様の書店街はオンラインへの移行などにより徐々に消滅している。神保町も店舗数は数十年にわたって減少したが、未だ中心ではある。東京の空襲、バブル時代の再開発も乗り越えて、なぜ神保町が生き残ることができたのか。文化人類学者としての視点で神保町が長続きした要因に焦点を当てたい。
  • 書店の多くはビルと土地を所有。
  • 児玉花外(Kodama Kagai 1874-1943)の詩「秋訪づる・書籍街の歌」を紹介。この詩が書かれた当時、神保町は書店のまちになってから既に50年経っていた。
  • 多くは小さな書店で多世代に渡るファミリービジネスであり、1880年頃まで遡る。現在で4代目。これは世界と比べても、とてもユニークな点。
  • ファミリービジネスは布のようなもの。縦糸と横糸があり、横糸の一種がのれん分け。それぞれ専門分野を持っている。のれん分けは本屋ビジネスのための一種のインキュベーター。
  • ファミリービジネスの例として、北沢書店を紹介。北沢書店の初代は滋賀県から16歳の時に移住、神保町の稲葉書店で2年間働いた後独立創業し、大きく育てた。
  • 2代目は東大を卒業、戦後アメリカでも学び大学教授を務めたが、大学教授を続けるのか店を引き継ぐのか迷った末、後者に決めた。専門の英米文学についての知識を活かし、洋書を輸入販売するという新しい方向に進み、成功した。
  • 3代目は洋書中心の経営を続けていて、とりわけ古書に特化している。洋書の輸入はAmazonの出現で大きな影響を受け、非常に難しくなっている。長くファッション業界にいた3代目の娘がディスプレイブックのマーケットに着目している。
  • 次の世代へ移行する際、本屋を引き継ぐ意義・意思は自分の興味に基づいて再発見できる。
  • 東京都古書籍商業協同組合(東京古書組合)の交換会は東京古書会館(神田支部)で週4日開催されている。交換会は本の流通に関して重要な場であり、いわば循環の心臓。
  • 世界と比べて非常にユニークで翻訳が難しいが、オークションとは異なる。交流があるので経済的な面だけではない社会的な意味がある場所。参加するにはメンバーシップが必要。
  • 交換会の特徴としては、封筒に金額を書いた紙を入れて入札する。最高入札額は必ずしも落札額にはならない。入札はキャンセルできる。本がテーブルの上に広げられていて情報共有することができるし、お互いの動きを見て他の人が何に注意を払っているかを推測することができる。封筒自体もコミュニケーションツールになる。封筒がいっぱいになっていたら興味を集めているということ。
  • 今神保町古書店で繁盛している小宮山書店は芸術に特化。カフェを併設してブックサロンのようなものを運営している書店もある。
  • ソーシャルメディアの活用は重要。ソーシャルメディアで共有して話題となったものとして神保町の地図が描かれているクッキーを紹介。
  • 古賀書店はクラシック音楽を中心とした古書の実店舗だったが廃業した。
  • 神田古本まつりは約1週間開催される。この期間はたくさんの人が神保町を訪れる。

▼質疑応答

  • のれん分けは継承されているのか。
    →例は少ないがまだある。
  • 古本屋に個人的に興味があるか。
    →最近昆虫に興味持ち、一誠堂書店でとても美しいイラストの絵本を見つけた。
  • なぜ交換会のようなシステムが確立されたと思うか。
    →ルーツは江戸時代。教科書の販売。自分のジャンルにないもの、他の誰かにとって価値があるかもしれないものを見つける方法だった。
    交換会は循環器の役割を担っている。血液は動き続けなければならない。動かなくなったらアザになるように、動いてないストックも困ることがある。
  • オンラインでの販売の影響
    →古い本の供給は減っていく。良い在庫を確保することはどんどん難しくなる。アートマーケットのように専門分野に特化したものになっていくかもしれない。
  • ソーシャルメディアを使って情報発信していくべきだと思うか
    →積極的に情報発信していくべき。初心者には専門的すぎると思われがちなところ、ソーシャルメディアが一種の架け橋になる。新しいビジョン、新しいブランドを作る人にとってはとても重要。
  • なぜスモーキーでカビが生えている古本が我々を惹きつけるのか。
    →匂いは多くの人にとっては重要。箪笥の中の着物の香りのように使っていた人の思い出を甦らせる。よくわからないが懐かしい香りはとても魅力的。匂いは保存状態によって変わるが、本がどう扱われてきたか、過去を味わうことにもつながる。
  • 最近は外国人観光客が多く訪れている。
    →外国語を扱う書店には特に多い。お土産に和風の本を買い求める人が多く、江戸時代の本は人気。英語のガイドマップもある。矢口書店など店の前に出した外の本棚のところでソーシャルメディアに載せるためにポーズをとっている外国人を多く見かける。
  • 神保町はアメリカではどのように知られているか。
    →興味がある人はいる。「森崎書店の日々」が英語に翻訳され、非常に売れているよう。この小説には本屋がその場所にあって欲しいという願望が描かれている。
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