| 日時 | 2025/7/24 19:00~20:30 |
| ゲスト | 馬場 咲和花氏(明治大学理工学部建築学科3年生) |
| 場所 | ちよだプラットフォームスクウェア 501会議室 |
| 参加者 | 19名 |
※発言者敬称略
▼冒頭挨拶【柳】
- 本日のゲストは、明治大学理工学部建築学科に在学中の馬場咲和花さん。「ひじりばし博覧会2025」での発表内容が素晴らしかったため、夜学にもお越しいただいた。神保町の地域性を活かし、古本・人・街をつなぎ静かな活気を生み出すオフィスビルの提案、「町に生きづく」について発表いただく。
▼課題説明【山本俊哉(明治大学理工学部建築学科教授)】
- 明治大学の理工学部は、駿河台ではなく川崎市の生田キャンパスにある。神保町の未来については昔から関心を持っており、コロナ禍前から神保町界隈でシンポジウムを開催してきた。
- 20年程前に神田学会とコラボレーションをし、神保町を「まちの図書館」にしていこうという構想を掲げた。2017年からは千代田学(千代田区と区内の大学が連携して地域課題を調査・研究する取り組み)にて日本大学、共立女子大学、東京文化資源会議の皆さん(東京都市大学の中島先生、東京大学の小泉先生等)と共に研究を続けてきた。
- 古書店の拡大・縮小傾向を調査したり、古書店経営者や来街者に対するアンケートを行なったりしたが、共通して「くつろげるスペースが欲しい」、「古い建物を残したい」、「書店や緑を増やしたい」という意見が見られた。
- それらをベースに、研究者チームが現実的な課題(余剰容積の移転、1階部分の活用、税金対策、事業性の確保等)について検討を重ねてきた。
- 並行して学生たちへは、都市計画とも絡めた神保町の歴史的変化について伝えてきた。
- 江戸時代には大名・旗本地であったこと
- 靖国通りの拡幅は2回行なわれ、奥行きが狭くなった敷地に並んだ長屋が大学の開設と共に古書店になっていったこと
- 戦後は床面積を拡大するために共同建替えも行なわれてきたこと
- かつて高架道路が通る計画があり、地元の反対がなければ六本木交差点と同じようなかたちになっていたかもしれないこと
- 白山通りが都市計画道路としてこれから拡幅されていく予定であること
- 関東大震災の復興計画で3項道路(建築基準法第42条第3項で認められている道路:やむを得ない理由により敷地後退距離を道幅2.7mまで緩和した道路)が設けられ、幹線道路から一歩入ると建物は壁のように建つ形になっていること
- 千代田区の都市計画マスタープランの概要についても話をしたうえで、さらに経済性や関連する法律の規定について簡単に説明したのが2年生の秋学期。
- 学生たちにとっては初となる3階建以上の建物を設計する課題を与えた。
- 敷地面積は891㎡、延床面積は3,700㎡。少ないのではないかと思われるかもしれないが、あまり厳密にやりすぎると学生たちのクリエイティブさが出てこないため、教育的配慮をした。
- 課した条件は以下のとおり。
- 延床面積の60%以上はオフィス(出版メディア関係)とし、ワークプレイスとしての快適性を担保してフレキシブルなスペースを設計すること
- 20年程前から神保町には本屋とカフェがミックスした状態で集積していることから、1階はブックカフェとして歩行者が気軽に立ち寄れる一定のフレキシビリティを持った空間にすること
- 世界一の「本の街」の玄関口となる交差点に面しているということで、建物を特徴付ける構造体と外装を美しくデザインすること
- 古書店街等の個性ある界隈の魅力を高めるために、古書店街の店舗の連続性、店先・道路等のパブリック空間との関係を大切にすること
- 交差点に面する敷地の西側部分は広場として一体的に整備し、かつ、街を繋ぐ交通の結節点としての機能を充実させて積極的に緑化を図ること
- 地下鉄への出入口があるが、地下まで含めると非常に難しくなるため、設計するのは地上部分以上とした。
- 設計期間は6週間。まず現地へ行き、25人程の8チームに分かれてリサーチを行なった。それらを発表・議論しながら、こちらからも「本の街・神保町を元気にする会」の本「神保町が好きだ!」第13号等を情報として提供。毎週小課題を出してその成果の優れている点や改善点を指摘し、それらを重ねて課題に取り組んできた。
▼ゲストスピーチ【馬場】
- 大阪府出身。現在3年生(課題制作時は2年生)。
- 学外のコンペに一度出展したことがあり、「建築新人戦2024」(全国の建築系学生を対象にした設計課題作品のコンペティション)では100選に選出いただいた。
- 3年目の課題は学生寮で明治大学の代表として「住宅課題賞」に選出。
- 建築新人戦では、「雨が流れる住宅」を設計したり、住宅課題賞では「まちかど学生寮」を考えたりした。
- 今回は、「町に生きづく」ということで、「本の街・神保町」で3つの「生きづく」を活用したオフィスビルとブックカフェを組み合わせた建築を提案させていただく。
- 敷地は靖国通りと白山通りが交わる交差点。
- 神保町で特徴的だと思うのは、立ち読みをしている人が多いという点と、雨でも軒屋根があれば立ち読みをしている人がいる点。立ち読みという文化は神保町からなくしてはならない文化だと感じた。
- 「今の神保町に求めること」という過去調査では、「くつろげるスペース」や、「古い建物を残しつつ賑やかに活発化させていくこと」という意見が多く出た。
- 今回提案するのは、神保町の特徴を受け継ぎながら街の延長として溶け込む書店、カフェを持つオフィスビル。ここで生まれる本との出会いや新たな人々との交流が神保町に静かな活気をもたらす、そういう建築を目指した。








- 建物は階が高くなるにつれてプライバシーが確保されている。1~2階にブックカフェ、3~4階にシェアオフィス、5~8階にプライベートオフィスを設置した。
- 設計のプランについて、まずは街の延長にあるブックカフェを、そして神保町の特徴である路地を敷地へT字に取り入れた。その中心に本棚の大階段を設置した。
- 北側に神保町特有の立ち読みスペースを確保するため、約4メートル幅の大きな軒を設置。中心の路地空間は、裏路地よりも大きく幅をとっている。
- 1階の書店は、神保町らしいコンテンツが詰まったものになっている。南側路地の反対側には「さぼうる」等の飲食店等が立ち並んでおり、そこに面するようにカフェを設置。この路地一帯を食の文化が復活するような空間として考えた。
- 1階のT字の路地に入る入口には屋根とベンチを配置して、人々が集まれる空間とした。立ち読みと路地の2つの空間は古本祭りにも利用されることを想定。この通りに本棚が置かれ、人々が集まるような空間となる。
- 2階へとつながる本棚に囲まれた大階段は、一般利用者とオフィス利用者とが意図せず交わる空間となっている。ここを中心に人々が集まり、本を読んだり待ち合わせをしたりと、本を通じた静かなつながりが生まれるようになっている。
- 2階は書店としての機能を果たすようにしている。2階にも路地空間があるため、古本祭りではこのスペースも大きく開かれる。
- 1~2階のブックカフェでは、本棚を通して敷地内の路地に人々が集まり、本棚の周りに人々が座る空間を作ることで神保町に静かな賑わいを生み出すようにしている。この場所を起点に将来的に神保町を活気づけていきたい。
- 3~5階はシェアオフィス。様々な会社が混ざって常に入れ替わる、絶えず変化し続ける街のように、常に新しい出会いを促すシェアオフィスを目指した。
- 内部には空間的に独立したブロックを複数個配置し、各所に本棚を用いたいろいろな空間を作って神保町の街らしさがオフィス全体に行き渡るような空間を作った。
- 専用オフィスは5~8階。各階にテラスや吹き抜け空間を作っているが、専用オフィスについては各社がある程度自由に設計できるように考えている。
- 屋上テラスは、休日にイベントスペースとして各社や地域へ貸出を行なうことを想定。
- 「呼吸するファサード」は、神保町の街並みに合わせつつ特徴を取り入れて神保町のシンボルビルとなるファサードを目指した。
- 1~2階がブックカフェ、3階以上がオフィス。吹き抜け空間、コモンズを交差点沿いに設け、3階~最上階の8階までを貫くようにしている。
- 内側の壁を神保町の街並みによくある煉瓦タイルの壁、外側を木目のカーテンウォールで形成することで、コモンズが作り出す空間が神保町のシンボルとなるようにした。
- コモンズは、「風の流れ」と「人の流れ」の2つの流れを作り出している。
「風の流れ」は、カーテンウォールを部分的に閉鎖可能な窓にして、季節や天気に応じて外気が循環する空間を目指した。オフィスにいながら外部の新鮮な空気を感じることのできる半屋外空間となっている。
「人の流れ」は、シェアオフィスの3~5階までを階段移動可能な構造とし、上下階を空間的につないでいる。人々の交流や新たな出会いを拡張する空間になればと考えている。 - 夜の神保町ということで、吹き抜け空間が照らされるようになり、夜の神保町らしさが際立つことになる。
- 「町に生きづく」とは、1~2階に設けた路地や大階段の本棚を通して人々が静かに生きづく、そして新たな人々との出会いが生きづく、呼吸するファサードと街が呼応するように生きづくという3つの観点で設計を考えた。
▼補足(山本俊哉)
- 現実的には1階部分にもっと店舗面積が必要との意見等があると思うが、学生課題のため制限を設けていない。
- 設計に取り組んでいる最中に「神田古本まつり」があった。非常に印象的だったということもあり、設計作品の中に取り入れられている。
- 一方、広場をどうするかが大きな課題だった。設計にあたっては千代田区の関係部署へも意見をうかがったが、アトリウムとまではいかなくとも神田神保町らしい広場を屋内の空間へ積極的に取り入れた点が馬場さんの作品の秀逸な点の一つ。
▼懇談会
- 大学2年生で出された課題でよくここまで緻密にできたと思う。
- 神保町は路地が狭かったり、他の街にはないような空間利用をしていたりと独特な成り立ちをしている。実践的に設計するよりも学生らしいフレッシュな目で神保町らしさを観察し、それを建築へ反映させるような自由さを謳歌してもいいと思う。
- 神保町には、看板建築や古い建物が残っていたり建物の壁面をフルに有効利用していたりと、なくしてほしくない特徴がある。提案の作品も綺麗に作られているが、整然とした大きな建物にわい雑さみたいなものが入り込んだらどうなるか、といったようなことは考えてみたか。
→神保町には小さな建物が多いが、課題の重要な項目に、「神保町らしさを取り入れること」に加え、「ファサードとして神保町の玄関口になるような建築を目指すこと」があった。当初は、それぞれ分棟にして建てたうえで内側を繋げるという建築も考えたが、そうするとオフィス内の繋がりが希薄になり、それぞれが孤立して見えるため、神保町の玄関口となる建物としては弱いと感じた。そこで、2層にすることで神保町らしさを出し、夜の神保町のイメージも加味したうえで外観にどう持っていけるかということを考えた。 - 建築でシンボル性を出そうとすると、分かりやすく単純化させることが必要。「これは神保町の建物だ」と誰が見ても分かるようなシンプルさが必要になる。そうすると、今の神保町を成り立たせている緻密さや密度の高さとのバランスが取りづらくなる。この課題は、学生に探求してもらいたいテーマでもある。
- 馬場さんは書店で本を読んでいる人の振る舞いに非常に関心を持ったという。都市計画的な建築規制からすると、幅広い道路に面した街区は、斜線制限が緩和されるので「さぼうる」側にできるだけ風通しを良くして、人の流れや緑を取り入れている。
- 今どきで素敵だと思った。大型ショッピングモール的なものだと神保町らしさが出ないかもしれない。子どもが1日中楽しめるような空間でとても良いが、歴史的なところがうまく取り入れられると、さらに良くなると思った。
- 建築については素人。場所的に地下鉄入口の脇あたりだと思うが、非常に見晴らしのいい場所。トラックでの荷物の搬入口や、エレベーターがどこに設置されているのかが気になった。杖を使っている人間が地下鉄の出入口に最もほしいのはエレベーター。現状、エレベーターを探そうとすると小学館まで行かなければならず、対応をお願いしたいと思っている。
→トラックの搬入経路や貨物搬入用のエレベーター設置については、検討していない。エレベーターは2台用意しているが、細部までは追及できていない。 - 街との関係で、西側の角地にある広場の使われ方のイメージがあれば聞かせてほしい。
→奥がT字の路地になっているが、そこに入り込むところまでいかない人達がいると思っている。神保町といっても、本に興味のない人や学生たちがここを起点に待ち合わせをしたり、座ったり、気が付けばT字の路地に入って行ったりして、それが本を読む機会につながっていけばと思い、屋根とベンチを配置した。 - 交差点にこういうビルができると、新しくて雰囲気もあっていいと思った。1~2階のブックカフェにはどのような書店が入ることをイメージしているのか。
→課題では新刊書店と指定されていたが、自分の希望としては1階に2つの小さな古本屋を、2階に新刊書店を入れたいと思っていた。
→綺麗な書店だったため今時の書店かと思ったが、神保町の古本屋は特徴がある。綺麗な並べ方をしているお店もあれば、雑然としているところがおもしろかったりもする。その辺りがうまく融合できればいいかもしれない。 - 熊谷市で50~60年前の古い建物を利用したシェア型書店を運営している。市全体を盛り上げていきたいが、人通りが少なく1日で5人くらいしかお客さんが来ないこともある。神保町で勉強してきたらどうだということで本日参加した。
タイトルが「神保町交差点に建つ出版社ビル」とのことだが、せっかくの作品をどこかへ提案する予定はあるか。
→5月のひじりばし博覧会で披露したほか、日本建築家協会千代田地域会(各大学が優秀作品を持ち合う場)に出展・披露する予定である。 - 設計課題は出版メディア関係ということで、グラフィックデザイン、メディアデザイン、本や本に限らない出版文化に関わる企業や個人事業主が入ってくることを想定し、神保町で暮らし働くという空間はどうあるべきか、という点も設計課題に取り入れた。
→千代田区へも提案する予定か。
→これまで千代田区から「千代田学」の助成金をいただき、昨年度の作品については日本大学、共立女子大学と共に学生の提案を発表してきた。 - 普段新宿で働いている。神保町は本が好きなのでよく来る。1階のオープンスペースや天井の広い空間によって、大きいけれど印象的に柔らかいイメージのある個性的な建物だと感じた。裏側には年季の入った喫茶店があるが、そこと比べると洗練されすぎている印象を受けた。1階は夜間も通り抜けできるようになっているのか。
→夜間は階段の手前でシャッターを下ろすことになっている。 - 銀行勤務。コンセプトが非常におもしろい。四つ角のエリア全体にスコープを広げてもらい、具体的に実現に向けて動くことを考えていただきたい。
- 建築学部の2年。地元が麹町。千代田区の都市計画に興味があり、今回参加してみたが、作品のレベルの高さに驚いた。CGでこのくらい作り込むことができれば、見ている人にこれだけ想像させられるということが分かった。
- 神保町のメイン通りは歴史的な地に根付いた建物がある。角地の顔になる場所にこうしたボリュームのある建物があると、ギャップが生まれそう。先程の平面図を見たところすごくお洒落なものができそうだが、既存の建物とのギャップを埋めるためのアイデアが、1~2階の路地裏空間ということか。
→そのとおり。 - 普段は中高生の授業を担当している。モノづくりが好きな生徒が多いので、今回の作品をぜひ見せたいと思った。中学校の探求授業で神保町を探訪していると、「素敵な街で好き」と言う一方で、「休憩場所がない」「トイレがない」「お店に入りづらい」ということを強く感じるようだ。神保町のまちづくりの課題として感じていることがあれば教えていただきたい。
→たしかに入りづらい雰囲気はある。自分自身、今回初めて2軒ほど古本屋に入って話を聞いてみたが、若い人は全く入っていなかった。神保町を古本だけでやっていくのは、正直難しいのではと思う。活発化・活性化させていくという面では、新刊書店等、若者が入りやすい書店を考えていきたい。一方、入りづらさは神保町の良さでもある。そことどう折り合いをつけていくかが課題。 - 30数年前に研数学館の学生だった頃、神保町で最初に行ったのは南洋堂書店だった。神保町は、実物に触れられたり、そういったものを求める人が周りにいると感じられたりする街。昨日、國學院大學の学生発表を聞いてきたが、学生と地域を結びつける課題を出してくれている点が非常に良かった。そうした取り組みが神保町に関心を持つ人口を増やしてくれていると感じた。
- 普段はクラシックな喫茶店に行ったり、絶版になった写真集を買いに来たりして神保町を楽しんでいるが、家族経営だと日曜は営業していないところもある。経済的には厳しいだろうが、中の活動が見えたり、用がなくてもふらっと入れたりする建物が成立する社会になるといいと思いながら発表を聞いていた。
- 台湾出身。神保町が大好き。出版社でグローバルコンテンツ関係の営業職をしており、初めて来日した出版社には必ず神保町を案内している。世界に日本の文化を発信するという観点からは、「これが神保町です」「これが神保町の代表的なビル、空間です」と紹介した際、海外の人が感動するようなものがあるといい。今日は素敵な作品を見せてもらい、ぜひ実現できたらと感じたが、文化的・日本的な側面があるとさらに良いと思った。
- 屋上利用等、いろいろな規制の中で独特のものが出せると良いと感じた。商業主義的なものと反するかもしれないが、神田神保町の土地の人間からすると、「入りづらい」「近寄り難い」というものがほしい。会員制クラブではないが、「神保町の人間でないと入りづらい」といったようなものがどこかにあるといいと思った。
- 立ち読みのための屋根は良いと思った。神保町ブックフェスティバルの仕事を手伝っていた時、トイレ問題が話題になった。来場者は高齢者が多い。もし防犯上の問題がクリアになるならば、1階にトイレがあると街の未来にも役に立つと思う。
- 図書館の出先のようなものが1階に作れるといいのではないか。千代田図書館はとてもいい図書館で夜遅くまで開いていて便利だが、神保町からは少し遠い。図書館の本を違う場所で返却できる動きも広がっているため、サービスカウンターの一部を建物の中に取り入れるようなことができると、「本の街・神保町」の良いアピールポイントになると感じた。
- 神保町は、一つ一つの建物というよりは、街全体の成り立ち方の特徴がとても重要。街が成り立つと単体の建築が成り立たないといったように、矛盾するところがある。
こういう建物のプロジェクトはすごく綺麗でやってみたいとは思うが、これが神保町のあの場所に建ったとき、街全体としてはどうなのか。建築の学生にとっては、ここが一番チャレンジングなところだと思っている。これからも自分の感覚を研ぎ澄まして観察していっていただきたい。 - 建築の教育関係の人間。来年、アメリカの大学院が神保町を取り上げて設計課題にしようとしていることから興味を持ち、参加した。こういう試みは本当に素晴らしい。今後も神保町のプロジェクトを皆で話し合う機会を作ってもらえたら嬉しい。
- 図書館勤務。図書館の出先カウンターが神保町にあると便利というのはそのとおり。貸出カウンターを設けることはなかなか難しいが、せめてブックポストくらいは設けられたらと考えている。
- 災害時の対策について伺いたい。神保町は本の街でもあるが、紙の街でもある。火事が起きた時の避難路の確保は図書館でも考えている。作品の大階段には広いスペースがあり、空間的には火が回りやすいように思う。吹き抜けがあると1階で火災が発生すると一気に8階まで火が回ることもあるかと思うが、何か対策を考えているか。
→吹き抜けは3階まで。そこから上階へ火が回ることはないと思っている。避難経路として2方向に階段を設けており、一応確保しているつもりだが、そのくらいしか考えられていない。
→防火性能に基づく防火区画ができているかどうかは、2年生の課題としては難しいため条件にはしていないが、2方向避難と直通階段は必ず設けることにしている。昨今は木質の構造ということで学生たちが積極的に提案してくることもある。ご指摘が重要なことだという点は認識している。 - 大学生。神保町に人を呼ぶというコンセプトからすると、ブックカフェを設置することは良いアイデアだと感じた。一般的にオフィスは上の2階層くらいでそれほど多くないイメージを個人的には持っているが、今回オフィスの割合を多くしたのはなぜか。
→課題として決められていたから、というのが正直な理由。オフィスを入れなければならない条件で、どう人の繋がりを生み出していくかを考えた。できるなら、上階にはカフェを設けたかった。 - 大学生。自分自身は建築の素人。卒業制作で神保町の古書店を絡めたプロジェクトを手掛けており、「若い世代に神保町に来てもらい、古書店で本を手にしてもらうにはどうしたらいいか」と考えてイベントを行なっている。人を入れるために路地裏を建物の中に取り込むという発想は個性的で、理にかなっていると感じた。
- 大学生。ひじりばし博覧会で見た展示の答え合わせをすることができたような印象。参加して良かった。自分も卒業制作をするにあたり、神保町にランドマークがないと感じていたが、この建築物がその一つの答えになっていると思った。
- 古書店の役員の方々にお話を伺ったが、世代が違うせいか、大学生が賑やかに盛り上がる雰囲気に馴染めないところがあるようだ。中高生を含めた、比較的古書店に入りづらさを感じる層にはこちら側へ来てもらい、古い店舗はそのままの趣を残しながら、ある種の共生、棲み分けのようなものができるように思った。
- カフェはどういうものを入れる予定か。
→文化カフェというコンセプトで考えている。賑やかになり過ぎない方がいい。 - オフィス内部にはどのような特徴があるのか。出版会社やメディア関連が入るということなので、イメージがあればお聞きしたい。
→設計課題としては、「コロナ禍後のオフィスはどのようなものか、働き方はどうなってくのか」についても学生に考えてもらった。
→オフィス内部はブロックをいくつか設け、小さな企業が貸し切って使える空間としている。その他はフリーアドレス制を導入し、単独経営者や固定の場所で働く必要のない方が様々な人と交流し、人々の繋がりが生まれるように考えた。
ブロックの内部は静かに集中する空間。外部はいろいろな人と交流しつつ自分が好きな仕事をする空間。静かな場所と賑やかな場所を組み合わせることで、オフィス内部を街のように設計した。 - 会社同士のイノベーションが生まれるような、定期的にセミナーが開催できるような大きなスペースもあるのか。
→シェアオフィスには小さな企業ばかりが入ってくるため、吹き抜け空間をイベントで使ったり、企業がセミナーを開いたりする空間に使えたらと思っている。
→こういうオフィスビルは神保町に向いているかもしれない。1人出版社があるように、少人数で仕事ができ、かつお互い刺激を受けることで良いものができるため、出版関係の小さな会社の人たちが集まるとおもしろいと思う。 - 神保町ではあまり屋上が利用されていないことが気になっている。路地や小さい建物がたくさんある点は神保町らしさを作っているが、ランドマークになる建物がなくて分かりにくいという話はよく聞く。交差点の一角くらいはこういう大きなものが建ってもいい気がしている。
- 千代田図書館の再設計で千代田区に出向した際、区全体のグランドデザインを考える中で神保町に分館を作りたいと区長へ提案したことがある。その時に考えていたのは、古書店の見本市に新刊本も混ぜて置いておき、本がおもしろいと思ったら書店へ買いに行ってもらうような仕組み。当時は、図書館が書店の売上を阻害しているという意見もあったため、そうではなく、それを促進するような機能を持たせることを提案した。
→今でもその機能は生きている。千代田区立の図書館では、同じ本を2冊以上買わないことが原則となっている。分館も今は3館ある(まちかど図書館)。 - 千代田学を継ぐような形で、8月に改めて先生方に集まってもらい神保町のグランドデザインを考える予定。路面やストリートの付加価値を高めるためにコンテンツ系の先生も加えて議論し、具体的な提案を行なう。来年には成果を出していく予定。
- 小林正美先生(明治大学名誉教授)が座長。明治大学の山本先生、共立女子大学、日本大学、東京大学の先生方に加え、台湾夜市の研究者である三文字さんや、雑居ビル・路地等を研究している慶應義塾大学のアルマザン先生(スペイン人)にも加わっていただく。学生にも話を聞いてもらう形にしていきたいと思っている。
- 皆さんのご意見を受け、さらに時間があればいろいろな改善に取り組み、より良いものにしていきたいと思った。地元の方の意見をより密に聞くことができ、非常に勉強になった。敷地調査をもっと頑張りたい。
▼今後の予定
- 8月はお休み。
- 第13回神保町夜学は、9月9日(火)に開催予定。紙の専門商社である竹尾の方をゲストにお迎えする。ユニークな会社なのでぜひいらしていいただきたい。
- 集英社のファッション誌『SPUR』の2025年9月号(7月23日発売)において、P.33-107まで神保町特集が組まれている。
参考:馬場咲和花さんの発表作品「町に生きづく」は、こちら
https://meiji-architecture.net/student-work/2024-2/2024_sekkei3

