| 日時 | 2025/9/9 19:00~20:30 |
| ゲスト | 鷺谷 洋行 氏(株式会社竹尾東京本店) |
| 場所 | YON(肆)地下一階 |
| 参加者 | 13名 |
※発言者敬称略
▼冒頭挨拶【草薙】
- 本日は、約7,000種類のファインペーパー(豊かな色や風合いを持つ紙)を取り扱う専門商社として有名な「紙の竹尾」の鷺谷洋行さんをゲストにお迎えした。紙の魅力や多様な用途、扱いの難しさ等についてお話しいただく。
▼ゲストスピーチ【鷺谷】
- 紙の専門商社である竹尾に入社し、今年で30年。営業から始め、総務・経理を含めた10部署程を渡り歩き、今は再び営業に携わっている。
- 主な顧客は一般企業。紙の他にも加工品(印刷物、ギフト用のパッケージ)やステーショナリー等も販売している。また、オフィス家具や机・椅子等のオフィス什器を扱っているオカムラ(旧岡村製作所)の特約店でもある。
- 紙の業界は歴史が長い。竹尾も1899年(明治32年)に京橋で創業。今年で126年目を迎える。製紙会社や印刷会社は100年以上の歴史を持つ企業が多いが、紙と印刷は昔から繋がりがある。
- 竹尾のロゴとなっているのが、16世紀にドイツのフランクフルトで出版された『西洋職人づくし』の挿絵。様々な職人を描いたヨースト・アマンによる木版画のひとつ「紙すき図」の中に「紙を運ぶ職人」の姿があり、そこから引用している。一枚一枚、丁寧にお客様へ紙を届けようという意味を込めたシンボルマーク。
- 神田錦町にある「見本帖本店」2階では紙とデザインに関する展示を開催している。現在は「きみとかみ 機能のある紙の話」展を開催中。ある主人公が、何気ない生活に潜んでいる様々な機能を持った紙の存在を見つけていく内容の展示になっている。ぜひお立ち寄りいただきたい。
- 表参道にも主にデザイナー・クリエイター向けの店舗「青山見本帖」がある。一枚から紙を買うことができ、現在、コンケラー(Conqueror®)という英国のステーショナリーに焦点を当てた展示「The identity of the Conqueror」を開催している。
- 本に因んだ話でいうと、ファインペーパーを用いたブックジャケットの綴込みを雑誌「ブレーン」上でお届けしている。今回皆さんにお渡ししたものは、「SUKEKAKEラップCoC」という中が透けて見える紙になる。
- 『PAPER’S』は、日本デザインセンター監修のもと、読み物として発行している冊子。No.68では沖縄の芭蕉紙を取り上げる等、毎回異なる特集を組んでいる。
- 支店・営業所は全国に5拠点。創業地は京橋だが、神保町に出版社や学校、製本会社等の顧客が多く集まっていたことから錦町へ移転。
- 1910年(明治43年)頃の写真を見ると、母家は住宅兼店舗という感じだった。現在の本社は昔倉庫だった場所。当時はフォークリフトがなかったため、紙の運搬は人力で行なっていた。新入社員は、紙を数えたり運んだりするが、紙の一丁は連量(厚み)が100㎏のもので約200枚。サイズは四六判(788mm × 1091mm)のものが多く倉庫に何丁も積まれている。ベテラン社員は2~3丁なら手で運搬した方が早いと担ぐが、非常に重い。
- 色紙は日本の製紙会社も作り始めていたが、本の装丁に使われるような色紙はまだ国内には少なかった。3代目社長竹尾榮一氏とグラフィックデザイナーの原弘氏、真砂製紙(現特種東海製紙)の製紙技術者である青地一興氏の3人が関わって竹尾の主力商品となるファインペーパーが誕生した。
- 国内でファインペーパーを作りたいとの思いがきっかけだったが、マサゴオペークという紙が1964年の東京オリンピックのポスターに採用された。
- 外国の色紙も多く扱っているが、日本ほど色彩の幅が広い国はない。中間色や微妙な色合いがあるところが日本の文化。それらを取り入れたバリエーション豊かな紙を開発し販売することで、デザイナーや本の装丁家の選択肢が広がるよう取り組んできた。
- 他にも「竹尾デスクダイアリー」と呼ばれる、暦(カレンダー)に加えて絵や写真、文章等デザインと情報を織り交ぜた冊子を作っている。
- 紙の啓蒙活動の一環として、「竹尾ペーパーショウ」を開催。国内の紙関連業界において唯一かつ最大規模の展覧会として、紙の製品見本や印刷したものを展示している。近年はクリエイターと協働し、紙の可能性を追及しようと、紙に加工を施したり、素材の耐久性を追及したり、デザイン性を高めたりと、非常にクオリティの高い内容になっている。
- 次で50回目。前回は神田スクエアで2023年に開催した。神保町を盛り上げるため、次もこの地で行ないたいと考えている。次回の開催も楽しみにしてほしい。
- 展示だけでなく、ペーパーショウ終了後に「ファインフルート」、「ファインモールド」素材を事業化させる企画が立ち上がった。
- 「ファインフルート」とは、カラー段ボールのこと。中芯となる波状の紙、フルートを表裏の紙、ライナーで挟んだ三層構造になっている。
段ボールは茶色や白が主流だが、色紙を3層組み合わせることで意匠性を持たせることができる。企業やブランドのイメージに合わせて特色で作ることも可能。 - 「ファインモールド」とは、厳選された素材を原料として金型を使って成型させたパルプモールドのこと。パルプモールドは、昔から卵のパック等に緩衝材用途に使用されている。コーヒー、お茶等のでがらし、チョコレートの原料であるカカオの外皮部分等の廃材を再利用し、乾燥、粉砕して混抄することも可能。
- お客様からいただいた原料をアップサイクルしてパッケージやノベルティ等の商品にして戻すという提案もしている。
- 竹尾の経営理念は、「環境と文化に貢献し、時代にチャレンジするクオリティカンパニー」。紙に携わる会社としてできることに取り組んでいきたい。環境面では、木材パルプ以外の非木材紙やFSC®森林認証紙(適切に管理された森林から生産された木材を原料とする紙)等環境に配慮した紙の開発及び販売を行なっている。
- 文化活動としては、「竹尾ポスターコレクション」(1997年の創業100周年記念事業の一環として取得した、20世紀のポスター作品)がある。
最近は紙のポスターは少なくなったが、戦争中はポスターを使って世論を操作する風潮があった。ポスターは当時の世相を反映していて、時代ごとにデザインや印刷技術も異なる。弊社で3,000点ほど購入し、多摩美術大学と共同でその時代のポスターが作られた背景を研究している。不定期で研究成果を発表しているため、その際はご案内したい。
▼懇親会
- 見本帖本店の内装設計を西沢立衛氏が手がけたということで、大学の先生から「絶対に見に行った方がいい」と勧められて訪れた。
- 建築の模型を作る際に使用する紙を選ぶためにもよく利用していた。
- 毎年通っていた「竹尾ペーパーショウ」でお土産を貰えるのも嬉しかった。
- なぜ紙に惹かれるのかは分からないが、演劇のフライヤーひとつ取っても、手触りや紙の質、印刷方法等をおもしろいと感じながら見ている。
- 海外に事務所があるということだが、どのような活動をしているのか。
→現在上海、クアラルンプール、バンコクの3か所に支店を置いている。支店は現地法人の形をとっており、現地の社員が竹尾の紙や海外メーカーの紙を輸入し、現地で販売している。 - どのような商品を輸入しているのか。
→印刷用紙や装丁に使われる色紙等、国内にない素材を見つけて輸入している。
「仕入れて売る」が基本だが、顧客の要望を受けメーカーに依頼して作ってもらうこともある(いわゆる開発品)。それを全て買い上げて販売する点が弊社の強み。
設備は持たないものの、メーカーと一緒になって商品を作るビジネスモデルが今日まで事業を継続できた理由でもある。 - 紙を作るだけではなく、いろいろな展示をされている点が素敵な会社だと思った。
- 株の仕事をしている関係で様々な企業を取材しているが、大変興味深く話を伺った。3,000点のポスターは、どういうタイミングでどのくらいの予算で購入したのか。
→一括で購入したと聞いているが、全て多摩美術大学へ寄託している。戦時中の貴重なポスターもある。購入金額については不明。 - 図書館では電子書籍も奨励しているが、やはり紙の本が主体。本の記憶は、内容はもちろんだが、その時の手触り(ハードカバーか文庫本か)によっても変わってくる。紙はとても大事だと思った。
- 日本では色の数が多い上にそれぞれに日本的な風合いの名前が付いている点が素晴らしいと思うが、御社で扱っている色の数はどのくらいか。
→商品アイテム数だと現在は約7,000点。紙の銘柄数は300程度。 - 職場のペーパーレス化が進んでおり、記録保存やスタッフ部門の数字管理は電子に置き換わってきている。一方で、図面を描くようなクリエイティブな仕事や、ディスカッション用の資料は印刷した紙を持参する社員が多く、ペーパーレス化にも限界がある。最後には廃棄されるものの、再生紙レベルでも一旦紙にしないと始まらないところがある。
- 今回ご紹介いただいた良い紙は、「ここぞ」という提案の際に用いるものだと思うが、どういう表現にするかは紙を見て考えたりする。クリエイティブなものを生み出すための材料として紙は大事。環境のためだけに紙の使用をやめることは難しい。
- 学校でも紙をよく使う。iPadはあるが、直近5年の傾向を見てもプリントの量は減っていない。
- 世の中はペーパーレス化が進み本も減っていると思うが、先ほど紹介のあった新しい2商品以外で近年のヒット作があれば教えてほしい。
→伸びている分野として、板紙や段ボール等を使ったパッケージやインクジェット等の印刷物が挙げられる。キャラクターやアイドル、漫画の複製画が海外の方にも人気。弊社では、素材としての紙だけでなく梱包してそのまま飾れる額縁のような商品も考案している。その他機能紙や付加価値を加えた紙加工品は伸びている。 - 和紙も取り扱っているのか。
→機械抄き和紙、手漉き和紙の両方を取り扱っている。 - 手漉き和紙は担い手がおらず厳しい状況。もう少し用途を広げられないものかという話をよく聞く。
→和紙は木材パルプが登場する以前から日本の紙を支えてきた素材。越前和紙や美濃和紙等を再評価する動きもある。和紙の品質は確かなものなので、その良さをどう伝えていけるかが課題。 - 手漉き和紙は、在庫がたくさんあるものなのか。
→見本帖本店にあるものはA4サイズ。取り寄せであれば枚数にもよるが全紙での用意は可能。 - 紙や工作が好きで、「紙博」のイベントにもよく参加している。今日は竹尾の方からお話が聞けるとのことで申し込んだ。
→特種東海製紙が、「紙わざ大賞」という一般の方も応募できるアートコンペティションを毎年開催している。著名な方が審査員を務め、受賞作品は東京交通会館等で展示される。見に行く価値がある。 - 静岡の三島駅近くにある特種東海製紙が運営する紙の魅力を発信する施設(Pam: Paper and material)で、一部過去の受賞作品を見ることができる(要予約)。
- 千住に江戸時代の紙漉き問屋の建物が2軒残っているが、映画やTVの撮影で使われるほど味がある。昔ながらの手漉き和紙に関する資料は割と残っているが、再生紙に関わる紙漉き問屋については整理された資料がない。御社に紙漉き問屋の歴史をまとめたものはあるか。
→竹尾でも資料が残っているか不明。 - デザイナーの方から紹介を受けて竹尾のギャラリーを訪問した。どの作品も素敵で触れてみたくなる。
- いただくとすごく嬉しい一方で、飾っていると虫がついてしまったり、包装もその後どう活用すればいいかで悩んだりする。リサイクルのアイデア等があれば教えてほしい。
→染料や薬品で染めている色紙は禁忌品に指定されるため、リサイクルが難しい。一般的にリサイクルできるのは淡色系の紙。通常の段ボールは9割ほどリサイクルに回っている。カラー段ボールは、色とその比率によって禁忌品となる。 - パッケージは、使い終わったら捨ててしまいがちだが、おもちゃ箱等に二次利用できるように設計を工夫している。また環境負荷の少ないものを用いたり、次の素材にリユースできたりするような提案をしている。過重包装をなくすことが環境には一番だと思うが、そこはお客様のご要望に合わせて対応している。
- 再生紙の中に禁忌品の色紙を混ぜて廃棄すると、その先どうなるのか。
→少量であればリサイクルに回るルートに乗ると思うが、大量に混じっている場合、中間業者が分別して可燃ゴミに回している。 - 牛乳パックは、回収ルートが確立されており、再生パルプメーカーにてフィルムとパルプを分離できる設備が整っているため、仮に混じってしまってもリサイクル可能。
- 父親が製紙業界に勤務していたが、父の時代は、「砂糖、紙パルプ、肥料またはセメント」の3つの白い産業が伸びると考えられていたらしい。「文化が栄えると紙の需要が増える」とロマンティックに言われていたとも聞く。鷺谷さんはニューヨーク生まれとのことだが、なぜ就職先に竹尾を選んだのか。
→父が銀行員で、アメリカの西海岸へ支店を立ち上げるため家族で渡米。中学入学まで現地校に通い、土曜日だけ日本人学校へ通っていた。その後日本の学校へ進学し、就職するなら生活に密着した産業がいいと思っていたところ、竹尾と出会った。 - 本好き。印刷された紙を仕分ける作業をしている。紙に興味があり参加した。奥深い世界で、機能性やデザインも広がっていくように思った。
→ブックデザイナーは本の原稿を読みイメージを膨らませる。装丁家は、本の内容に合う紙はどういうものかを考える。その方々にいろいろな紙を紹介して、一つの本ができあがる。書店に並ぶ本も、使われているカバーや紙でどのような内容の本なのかを何となくイメージできたりする。本の装丁は奥深い。 - 今まで出会った竹尾の紙の中ですごいと感じたものはあるか。
→「パチカ」という商品。成分の一部が熱を加えることで半透明化する。グリーティングカードやお酒のラベル等に使われている。 - 紙の専門店が徐々になくなってきている。神保町に紙の専門店は他にあるか?
→「和紙 山形屋紙店」、御茶ノ水の「レモン画翠」、文房具にはなるが銀座の「伊東屋」等。 - 学生が印刷とのマッチングをしていない状態の紙を買ってくることが多い。その点、竹尾さんは印刷方式(インクジェット、レーザー)のテスト等、細かな対応をしてくれるため、安心して購入できる。
→何で印刷をするかで適する紙が変わってくる。見本帖本店では刷った見本を展示しているため、お客様が選びやすいようになっている。 - 特殊紙を生産ができる製紙会社はどこか。
→王子製紙、日本製紙等の一般紙を生産している所は、生産設備も大きい。一般紙は大量に作るが、いわゆる特殊紙はマシンが小さい。多品種・小ロットで生産するため、小回りが利く。特殊紙のメーカーでいうと、特種東海製紙、大王製紙、王子エフテックス、リンテック等。 - 静岡に製紙会社が多いのは、水系がたくさんあり紙を作る環境が整っているため。パルプと水は切っても切れない関係。基本的に木材のチップは陸路ではなく船で運ぶため、港から近い場所に製紙会社の工場を持つところが多い。
- 特殊紙は国内需要に対して国内生産で対応しているのか。輸入することもあるのか。
→もともと需要が小さいため、国内で生産、販売しているものが多い。外国の紙を輸入して販売することもある。 - 木材パルプだけではなく、ミツマタ等を使った昔ながらの和紙も作られているのか。
→和紙の原料として使われている。取扱いもしている。 - ファイルに付けられているマークは、金属の型をプレスしている。理屈は活版のような形だが、インクは載せないで空押ししている。
- 紙にも品質期限はあるのか。
→紙にも消費期限がある。保管状況にもよるが、色紙でいうと蛍光色やグレーは色が抜けやすい。染料や色によっても褪せ方が変わり、1年も持たず変色することもある。 - 鷺谷さんが思う紙の魅力とは何か。
→紙も生き物だと感じる。商材ではあるが、毎回扱うごとに違う性質が出る。印刷しても前と同じように出なかったり、加工が同じようにやってもうまくいかなかったりする。紙も、伸び縮みしたり形が変わったり反発したりする。人間と同じように様々な性格を持っているという意味で魅力を感じる。
▼次回の予定
- 第14回神保町夜学は10月15日(水)、ブックハウスカフェで開催。
- 明治13年、神田錦町の地で創業した炭問屋を継ぎ、「炭」をコンセプトとしたカフェダイニング・ワーキングスペースとして生まれ変わった「廣瀬與兵衛商店」の廣瀬直之さんをゲストにお迎えする。炭と料理の関係等、炭の奥深さを知ることができるはず。

