日時 | 2024/10/25 19:00~20:30 |
ゲスト | 岸川雅範氏(神田神社禰宜) |
場所 | ブックカフェ二十世紀 |
※発言者敬称略
▼冒頭挨拶
【柳】
本日の会場「ブックカフェ二十世紀」は、阿佐ヶ谷の老舗古書店「ネオ書房」を引き継いだ切通さんが、神保町の古書店@ワンダーの2階に「ネオ書房@ワンダー店」としてリニューアルオープンさせたもの。私の年代で切通さんといえば、書籍もたくさん出されている気鋭の評論家。その切通さんがブックカフェを始めたということで、ひと言ご挨拶いただきたい。
【切通理作(ネオ書房店長)】
この店は、シェア本棚という形で経営している。イベントの他、絵や作品を展示する方へも場所を提供しているため、このスペースを利用して何かしてみたいと思われる方は、気軽にお声かけいただきたい。
【真鍋】
「神保町夜学」は、神保町の夜を元気にする方策について楽しく懇談しながらそれぞれの関心や学びを深めていこうという会。第4回目の本日は神田神社禰宜の岸川雅範さんをお招きし、出版文化、プロレス文化、氏子町等多岐に渡って神保町との関わりについてお話しいただく。
▼ゲストスピーチ【岸川】
- 神保町というと、私の中では「書泉グランデ」の看板(「鉄道」「アイドル」「プロレス」)が一番印象的。小学校2年生の時に初代タイガーマスク・佐山サトルさんが一世を風靡したが、数年前まで神田明神の近くに佐山さんの武道場があった関係で知り合い、5年程お付き合いいただいている。
令和2年に神田明神資料館で特別展「初代タイガーマスクの武道精神と日本文化展」を開催。神田明神資料館の特別展では、初代タイガーマスク専属のマスク職人・中村之洋さんの職場(水道橋)まで初代タイガーマスクのマスクやコスチュームを借りに行き展示した。
令和2年には資料館での特別展に加え、かつては松岡正剛先生、荒俣宏先生、田中優子先生も登壇された神田明神の江戸文化講座「明神塾」でも講演をいただいていた。神田明神とコラボレーション(以下、「コラボ」)も制作し神田明神資料館に展示している。
佐山さんは武道の創造とその講演会を開催することが生きがいとのこと。オープンフィンガーグローブ(格闘技で使用されている、5本の指がオープンになっているグローブ)の考案者だが、総合格闘技を世界に広めたいとの想いから特許を取得しなかったそうだ。 - 明治20年代の浮世絵に、築地や秋葉原の空き地でボクシングとレスリングをしている絵が神田明神に所蔵されている。現在の秋葉原は建物がひしめいているが、明治時代は火除け地で、鎮火社(現・秋葉神社)の境内は大広場で見世物の一つとしてプロレスやボクシングが興行されていたという。そういう意味で秋葉原というのは、実は日本プロレスの聖地でもある。
- オノデン秋葉原本館にあるENTASは、東京文化資源会議でも使っていただきたいイベントスペース。同じビルにあるアニメを扱う「ジーストアアキバ」や「キュアメイドカフェ」(日本におけるメイド喫茶1号店と言われている)は㈱コスパグループが運営しており、その代表は松永芳幸さん。松永さんと一緒に仕事をしていたのが、新日本プロレスの事業を担っているブシロード社長の木谷高明さん。そんなご縁からかオノデン内にも「闘魂SHOPサテライト」がある。
- 神田明神で最初にプロレスを行なったのは、アイスリボンという女子プロレス。『AKIBA’S TRIP』という秋葉原とストリップアクションを掛けたゲームのコラボ試合を祭務所の地下ホールで実施した。
また、ご当地プロレスである神田プロレスも境内で奉納プロレスを行った。当初、子どものイベントと絡ませて行なわないかと話合ったカレーマスクという神保町のご当地プロレスラーは、節分の豆まきにも参加した。 - その後、DDTプロレスリングという団体から路上プロレスをAmazon Primeで放映したいとの依頼があり受け入れた。最初の打合せで神殿前と正面の参道は侵入厳禁と伝えた。当初、DDTプロレスリングについて全く知らなかったが、男色ディーノはじめおもしろい選手が多く所属している。数年前に神田明神から徒歩5分の場所に道場ができ、神田明神でよく記者会見もしている。HARASHIMAさんというDDTプロレスリングを代表するプロレスラーは神田明神で結婚式を挙げる等、親しい関係にある。令和7年の神田祭では神田明神ホールで2日間、DDTプロレスリングを開催する予定である。
- 令和6年5月に境内で還暦祝いの奉納プロレスを行なったのは、神取忍さん。相手はダンプ松本さん。ダンプ松本さんといえばドラム缶。使用後のへこんだドラム缶を若手女子プロレスラーが捨てようとしていたところを拾い、大事な資料として資料館へ収蔵した。
神保町から秋葉原にかけては今まで話したプロレスの歴史があり、神保町には書泉グランデというプロレス関連の書籍をそろえる書店、さらに水道橋には後楽園ホールというプロレスの聖地もあり、プロレス文化が根付いている土地柄といえる。 - 神保町と言えば神田明神の氏子町と思われがちであるが、意外とそうでもない所もある。そもそも氏子区域というのは、明治5年に作られた近代の産物。神保町、猿楽町、西神田辺りは武家屋敷があり、江戸時代は町ではなかった(ちなみに神社仏閣も町ではなかった)。
- 現在、日本橋を渡った先は「日枝神社」の氏子区域。ただし、江戸時代の神田明神の御神輿は日本橋を渡って京橋界隈も渡御した。現在の京橋は南伝馬町と呼ばれていた。これだけ見ても分かるように、現在の氏子区域は江戸時代には全てが形成されておらず、明治時代に徐々に確定されていった。
神保町について言うと、神田明神の氏子町は、ほんの一部。集英社も小学館も共立女子大学も三崎稲荷神社の氏子区域になる。 - 三崎稲荷神社の山崎宮司は昔神田明神の神職をしながら三崎稲荷神社の宮司もされていた。禰宜の山崎充彦さんは神田の地元の小学校や中学校のPTA会長や東京の千代田区の神社組合の支部長も担う方。三崎稲荷神社はお祭り自体も非常に盛り上がっているため、行ってみていただきたい。水道橋駅から徒歩1分くらいの場所に鎮座しているのでアクセスも非常にしやすい。
- 神田明神といえば、アニメや漫画、ゲームとのコラボで知られていることをご存知の方もいると思う。『ケロロ軍曹』はKADOKAWAさん、『チョロQ』『リカちゃん』はタカラトミーさん、『犬夜叉』は小学館さん。KADOKAWAさんと小学館さんは千代田区に会社があり、特に小学館さんは神保町にある。神田明神では平成17年に高橋留美子さんからコラボをしたいとのお話をいただき、こちら側も初めてだからやってみたいと思い『犬夜叉』とのコラボお守りを授与した。
- 小学館さんとの関係では、神社の広報担当として『サライ』のインタビューを受けたり、平成27年に神田明神遷座400年を記念して『神社のおしえ』という神社の基礎知識を書いた本を出版したりした。その後、アニメではなく原作で『名探偵コナン』とのコラボを打診したが、上手くいかず実現しなかった。
それを聞いていたとある編集者が、「うちのはどうですか?」と言ってくださり実現したのが、『とっとこハム太郎』とのコラボ。『とっとこハム太郎』はネズミ。神田明神の神様は大己貴命(おおなむちのみこと)でだいこく様。日本最古の書『古事記』の中でネズミに助けられる話がある。大己貴命が素戔嗚尊へ娘・須勢理毘売命との結婚の許しを得に出向いたところ、「私が出した試練に耐えられたら結婚させてやる。矢を射ってその矢を取ってこい」と言われ、矢が放たれ落ちたところを火だるまにされるという理不尽な仕打ちを受け困っていたところ、穴から「ここにどうぞ」と言って助けてくれたのがネズミだった。この話を聞いた原作者の河井リツ子先生がこの神話のハム太郎版を肉筆で描いてくださり、その作品を中心とした神田明神資料館の特別展を開催した。現在、神田明神資料館内のジオラマに、とっとこハム太郎のぬいぐるみを展示している。小規模で学芸員もいない博物館だからこそ、こういった自由なことができる。 - 商売繁昌の神社に合うのではと、小学館の懇意にしている方からいただいた漫画がとてもおもしろく、コラボを持ち掛けて実現したのが『ケンガンアシュラ』とのコラボ展示(『戦と拳願仕合』)。会社から雇われている闘技者同士が拳願仕合をし、勝者を雇っている会社が高層ビルの建設等のビジネスの権利を獲得できる、といったビジネスと格闘が融合した漫画。
「拳願仕合」自体は、江戸幕府の第4代将軍・徳川家綱が始めたもので、仕事の取り合いで殺し合いをするのを止めて、仕合の勝敗で仕事を割り振っていこうという設定のフィクション。江戸時代にも関連し戦の浮世絵もたくさん所蔵していたため、同じく神田明神資料館でコラボ展示を行なった。作中、神田明神境内地下300メートルのところに闘技場が作られるなどのコラボも行なった。 - 集英社さんとの関係で最たるものといえば、『こちら葛飾区亀有公園前派出所(以下、「こち亀」)』とのコラボ。当時の神田明神の大鳥居信史宮司が「現代の漫画家に神田祭を描いてもらえないか」と言ったことが発端となった。秋本治先生の『こち亀』連載40周年と神田明神の遷座400周年ということもあり、実現した。絵巻物を奉納してもらい、『こち亀』の連載を終了した。
→葛飾との関係は大丈夫だったのか。
→最後は神田明神下で終わっているため問題ない。浅草・葛飾はいわゆる下町だが、そもそも神田は元祖下町。最後はそこで落ち着かせたかったのかもしれない。肉筆で描いた絵巻物とは別にレプリカもいただいき、そちらを展示している。
→原画は、100年後には江戸時代の浮世絵みたいな扱いになりそう。
→そうなると思う。内容自体も、戦後からの子どもの遊びが描かれていて、秋本先生だからこそ許されるのだろうが、エヴァンゲリオンや初音ミクも描かれている。 - 今年(令和6年)神田明神資料館でコラボをしたものの中に、『めでたく候』という漫画がある。主役は桂昌院という元禄時代の女性。八百屋の娘から第3代将軍・徳川家光の側室になったことから、シンデレラストーリーとも言われている。
→それはフィクションではないのか。
→史実なのかどうか難しいところはあるが、側室になったことは歴史的な事実。桂昌院は、神田祭を江戸城の中で初めて見た人。神社仏閣に対する信仰心が強く、いろいろな神社仏閣に奉納をしたり、文京区の護国寺を建てたりと江戸の社寺文化に大変貢献した。神田明神にとっても非常に重要な人物。著者の藤村真理さんのインタビューも行なったので、ネットでぜひご覧いただきたい。
(https://www.kandamyoujin.or.jp/bunka/detail/?id=135) - 集英社さんとは神田祭でのコラボをいつも相談している。昨年の神田祭では某人気漫画とのコラボを打診したが、3月に某人気漫画が一億部突破したらという条件を突破できなかった。コラボは簡単にできるものではなく、やはりご縁が必要。一番良いのは何かの記念やアニメ化のタイミング。
- 某人気漫画はダメだったが、4月からアニメ化するものがあるのでコラボしませんかと言われたのが『推しの子』。この時はお祭りの特別展だったので、日本三大祭りの一つである「天神祭」を催す大阪天満宮さんともコラボし、大阪天満宮さんが所蔵する『天神祭絵巻』も展示した。東京では初の公開で、非常に貴重な資料だった。
- 千代田区や神保町ではないが、講談社さんとも特別展でコラボしている。『バトルスタディーズ』という甲子園を舞台にした野球漫画で、著者はなきぼくろさんという元PL学園の野球部で活躍した野球児。PL学園がモデルで高校野球では名門の野球部員たちの名言の説得力がものすごい。野球漫画というと弱いチームが勝ち上がって優勝するというストーリーが多いが、この作品は元々強いチームが悩みながら甲子園出場と優勝を目指す物語。甲子園常連校でも、甲子園で優勝することは難しい。
→PLも宗教だが大丈夫なのか。
→PLは「パーフェクト リバティー」という神道系の教団。それに宗教という観点から見ていないので問題はない。
展示では神田明神と野球をいかに繋げるかを考えたが、あまり関連性がイメージされなかったようで100人以下だった。しかし実際には神田明神と野球との関係は大きく、例えば境内にある小唄作詞塚で明治から昭和戦後に「江戸小唄」をたしなんだ人物の一人として平岡吟舟(本名は平岡煕)さんの名が最初に出てくるが、この方は「新橋アスレチック倶楽部」という日本初の野球チームを作った人で、さらに初めてカーブを投げた人。東京ドームに併設されている「野球殿堂博物館」にレリーフがあるが、野球殿堂入り第一号を果たした人物でもある。 - 神保町にある学士会館の敷地内に「日本野球発祥の地」の記念碑もある。さらに神田明神の氏子球団ともいえる球団も存在する。読売新聞の本社ビルは大手町の将門塚の近くにあり、神田明神の氏子区域で、その中に読売巨人軍がある。そのため、開幕戦に必ず会長さん、社長さんがお参りに来る。こんな関係もあり、2年に1度の神田祭の年のゴールデンウィークの1試合を「神田祭デー」として行なっている。
- 講談社さんとは今年、人気漫画『カッコウの許嫁』とのコラボ展示も開催した。原作者・吉河美希先生に喜んでいただいた。神田明神のコラボ企画は、所蔵している浮世絵や漫画の原画等で、拝観者だけでなく原作者や関係者にも喜んでもらえるような展示を心がけている。
- 文藝春秋さんともお付き合いがある。THE ALFEEの高見澤俊彦さんが『特撮家族』という小説を執筆するにあたり、神様のことを知りたいと話を聞きにいらっしゃった。話をしていくうちに、神田明神が舞台としてメインに登場するようになっていった。昨年の資料館の特別展では、2階は『推しの子』とのコラボ、3階は高見澤さんとのコラボを行ない、伊勢の神宮の神木を一部使用した「勾玉ギター」を展示した。
『特撮家族』には神田明神のご祭神の少彦名命(すくなひこなのみこと)が重要な存在として登場した。その少彦名命を祀って令和5年が150年だったことから初めて「えびす祭」を開催。第一回目だから賑やかなイベントもすることになり、その一つとして、高見澤さんとのトークイベントも行なった。
現在は二か月に一度、『オール讀物』にて「神様について語ろう」というタイトルで対談したものが掲載されている。 - 東京文化資源会議とのコラボで外せないのは、『シュタインズ・ゲート ゼロ』というアニメ。KADOKAWAさんとコラボするタイミングで東京文化資源会議の「広域秋葉原作戦会議プロジェクト」の前身チームに参加。秋葉原を舞台とするゲームとアニメのシュタインズ・ゲートとのコラボを現・武蔵大学准教授の菊地英輝先生に話したところ、菊地先生も大好きなアニメでぜひ一緒に取り組みたいという話になり、展示にも参加してもらった。KADOKAWAさんからのVR体験、神田明神の資料展示の他、菊地先生がドクターペッパーやメイド喫茶の歴史、コンテンツツーリズム的な研究の解説を担当された。この『シュタインズ・ゲート ゼロ』とのコラボ展示をきっかけに、現在のようなコラボがかなり増加した。
- ちなみにKADOKAWAさんからは『江戸の祭礼』という本も刊行させてもらった。
▼懇談会
- 会社の紹介で参加。別のプロジェクトで建築物とそこに集まるコミュニケーションについて勉強中。大きな公共建築物について研究をしているが、寺社仏閣についても調べたいと思っている。建築ツアー等はあるか。
→現在、社殿の修復委員会を作っているが、その専門委員でもある東京科学大学名誉教授の藤岡洋保先生に時おり講演をしてもらっている。
神田明神の社殿は、昭和9年に鉄骨鉄筋コンクリートで建設されたもの。非常に珍しいとのことで、細かな歴史を調べ、古めかしいけれど当時の最新技術を駆使しているというようなことを説明してくださった。とてもおもしろく興味深いので、また講演の機会を作りたい。
→コンクリートにした理由は、大地震の際、象徴的な神社が崩れるわけにいかないという考え方からか。
→そう。設計監督は、明治神宮創建や式年遷宮、日光東照宮修復に携わった大江新太郎さんと、大隈記念講堂や日比谷公会堂を設計した佐藤功一さんが担当。実質現場にいたのは佐藤さんで、デザイン的な部分は大江さんが担ったという。また鉄骨鉄筋コンクリートで社殿を建立することを考案したのは、当時内務省で多くの神社建築に携わった角南隆さんだと言われている。 - 本殿の他の小さな建物との位置関係も含めて、何人かで訪れた際に簡単に説明してもらえるツアー等はあるか。
→特別には行なっていない。
→東京文化資源会議で社殿案内ツアーを企画し、岸川さんに案内いただくのはどうか。→それでもいいし、藤岡先生や吉見先生にお話ししてもらうのも良いかもしれない。 - 高台に位置するが、地盤のどれくらいの深さに杭を打っているのか。
→山を切り崩して高台にしているはずで、地盤検査では非常に強固との結果が出る。
→本郷台地は、麹の蔵が地下にあるほど強い地盤。
→神社や武家屋敷は高台にでき、谷底に町ができるという考え方があるようだ。 - 研究仲間は、鳥居のすそ飾り(波型)を見て、「これは何なのか」とずっと議論をするようなメンバー。彼らが訪れると、建造物の素材や目立たないけれど拘りをもっている細工の部分等を壁にへばりつきながら見ると思う。
→藤岡先生もそう。屋根裏まで見ていて、非常に細かなところまで説明してくれる。たとえば、「ここに丸Cと書いているだろう?だから八幡製鉄所なんだよ」とか、「ここは石の土台部分を台形にしているから現代的なんだ(伝統的な建築で台形はあり得ない)」等。そのかわり、3時間くらいは確保してもらう必要がある。
→研究会は、何人かとされているのか。
→東京藝術大学と東京都美術館とが行なっているプロジェクトの中の講義「建築物を中心に人が集まるコミュニケーション」を受講している人たちで活動している。
→講義とのコラボでも全然問題ない。
→藝大は実は「附け祭」に出ている。
→社殿見学会はぜひ行ないたい。 - いろいろな建物が適当に配置されている気がするが、配置に意味はあるのか。
→現在は、空いている場所へ適当に配置した感じになっている。関東大震災の後、昭和9年に社殿が再建されたが、社殿以外はお金が足りず建てられなかった。昭和3年に境内予想図のような見取図が作成されているが、それとは全く別の配置になっていて、今後整備していかなければならないと思っている。 - コラボの話が非常におもしろかった。なぜこれほどコラボを行なうのか。神社の一つの役割としてお祭りがあると思うが、現代のお祭りとしてコラボを行なっているのかも含め、土台にある思想やモチベーションを伺いたい。
→来年、「江戸の祭礼文化とは何か」というテーマで江戸祭礼文化講座を開催しようと思っている。江戸時代には「山車」の上に人形が乗っていて、神田明神資料館にも江戸時代と明治時代の山車人形が2つ所蔵されているが、その他にも地方に貰われていった山車人形がたくさんある。
その他にも、令和7年、荒俣宏先生の原作小説で映画にもなった「帝都物語」が40周年を迎える。映画の方で主役の一人を演じられた嶋田久作さんにもお越しいただいて講演会をしようという話になっている。自分の中では、この2つは対立していない。江戸祭礼文化に関してもそうだが、山車の祭り、附け祭の祭りがあって、今は神輿が多く担がれる祭りに変わっている。これは大正時代に変わったものだが、そうした伝統はそれまでの歴史を資源としつつ創造される新しい文化と考えられる。同時に、神社は現代文化だと思っている。神社とのコラボは見た目が珍しくまたおもしろくもあるので、注目されやすい。かといって、神田明神と親和性のない内容のものとはコラボしない。あとは人との繋がりを大事にしている。祭りもそうだが、町の人と繋がり、地方の人たちとも繋がり、それが継続されていくことで歴史も継続していくのではないかと考えている。
→神社は庶民の文化をうまく表現してくれている。昔は歌舞伎も奉納相撲もあった。浮世絵も神社と関係が深い。今の庶民の文化といえば、アニメや漫画。それをどう見せてくれるかという装置として、神社があるとも言えそう。 - 10月に浮世絵師・歌川国芳(大きなドクロを描くことで有名)のイベントを、山本野理子さん(川崎浮世絵ギャラリー学芸員、芸術学博士)、塩崎顕さん(歌川国芳の絵をモチーフに人気漫画でアニメ化もした『進撃の巨人』の浮世絵を描いている日本画家)と行なった。浮世絵は、絵師・彫り師・刷り師・和紙職人がいて成り立つものだが、彫り師も刷り師も今は100人以下と言われる。浮世絵は日本の大事な文化であるにも関わらず、日本人は浮世絵を買わない。このイベントを通じて、日本の刷り師・彫り師の継承と日本人が浮世絵を購入するためにはどうすべきかを考えている。その一つのヒントが、現代のコンテンツを浮世絵化している塩崎さん。それは江戸時代に普通に行なわれていたこと。セル画やデジタルもやり方としてはあるが、個人的には浮世絵がいわゆる江戸・東京、千代田区の文化だと思うため、伝統文化を残していくために現代のコンテンツを使うのはありだと感じている。浮世絵だけでイベントを開催すると年齢層が高めになりがちだが、塩崎さんが入ることによって若い人も来てくれる。結果、継承される確率が上がる。そういう意味でコラボもありだと感じている。
→「神社なのにコラボ?」という見方はあるが、お話を伺っていると、「神社だからコラボ」と必然性を感じた。 - 地方の神社でお祭りを催すとみんな集まるが、その延長線のようなものかもしれない。
→地方の神社の方が作りもののクオリティが高く、リアル。逆説的に、「どうして?」と思われるのはいいこと。疑問を感じてもらえると、それをきっかけに説明できる。 - 教会でゴスペルを歌うことも伝統的なものだと思うが、よく考えると当時はただ流行りのものを歌っていただけ。そういう場所なのだろうと思う。
- 神田明神ホールは最先端のライブ装置が入っているのでアイドルに大人気だと聞いた。
- IT守護お守りをいち早く授与していたと思うが、今後はバーチャルや生成AI等への取り組みも考えているのか。
→基本的に、神社へ人が参拝することが重要であるため、あまりその辺りは考えていない。資料館の浮世絵がネット上で見られるのはありだと思うので「神田明神オンラインミュージアム」を開館したが、参拝がネット上でできるというのは、未だかなと思う。 - インターネットでお参りをして、お賽銭をPayPayで払うのはダメか。
→ダメではないが、実際のところ参拝者が利用しないのが現状である。以前、PayPayでも払えるようにしたが、利用者がいないため、いつの間にか消えてなくなった。建物に対する寄付をオンラインで募集するのはいいと思うが、お賽銭はどうなのだろう。本来は、お金に穢れをつけて道端にポンと捨てて厄を祓う文化があった。厄落としという意味を考えるとモノでないといけない気がするが、各神社のトップの考え方によるところがあると思う。 - 一度、劇場版『Fate/stay night』とのコラボ御朱印帳につられて神田明神へ行ったことがある。コラボを目的に来る人は、どのくらいいるのか。
→実は今、お守りのコラボは授与しておらず、コラボの実施は資料館のみ。そういえば、大妻女子大学で民俗学を教えているが、オタクではなく普通の人でもアニメや漫画、ゲームが好きという時代。『薬屋のひとりごと』は熱狂的なファンが来るかもしれないが、何か一つとコラボしているという理由だけで来る人はそれほどいなさそう。
→自分は、神田明神へお参りにいくつもりではなく、『Fate』とのコラボが目的だった。
→『ラブライブ!』もコラボ目的で訪れる人がいるかもしれない。年配の参拝者の中には、「銭形平次の碑」を見たいから来たという人も結構いる。 - アニメ、漫画、ゲームにこだわらず、何とコラボしたら来たいと思うか聞いてみたい。
→KADOKAWAの『青春ブタ野郎』。
→KONAMIの『eFootball』。
→eスポーツとのコラボは実現していないので、何かやってみたい。 - 神保町が舞台のラジオドラマ『NISSAN あ、安部礼司 ~ BEYOND THE AVERAGE ~』(2006年より東京 FMで日曜17時から放送中)をきっかけに神保町に住み始めたくらいこのラジオドラマが好き。平均的なサラリーマンが主人公で、根強いファンがたくさんいる。年に一度イベントを開催し、スタンプラリーもしている。
→東京文化資源会議とコラボし、夜学に来てもらってもいいかもしれない。
→作家さんと知り合いなので、声をかけてみる。
→神田祭で山車の代わりに日産の車を出すのもいいかもしれない。 - Podcast等の音声コンテンツも若者の間で流行っている。鐘の音、祝詞の音、手水の音等もいいかもしれない。
→東京文化資源会議とも親和性がありそう。 - 外国のものとのコラボもいいかも。
▼次回に向けて
- 11月27日(水)、PASSAGEの3号店の隣に最近できた「肆(YON)」という複合ビルの地下にある音響抜群のリスニングルームで開催予定。
- 渋谷でいろいろな事業を手掛けていた歯科医師の女性が、なぜ神保町で複合文化施設のようなものをオープンしたのか語っていただく。