第7回 神保町夜学

神保町夜学
日時2025/1/16 19:00~20:30
ゲスト野上暁氏(文芸評論家)
場所月花舎
参加者20名

※発言者敬称略

▼冒頭挨拶【福地(月花舎オーナー)、柳】

  • 本日の会場はオープンして間もないが、最近、神保町でこういったユニークなスペースが増えてきている。どのようなコンセプトでこのお店を開いたのか、オーナーにひと言ご挨拶いただきたい。
  • 2007年から四谷でジャズ喫茶を経営していたが、神保町へ移転して2024年の4月に総合芸術喫茶としてここをオープンさせた。神保町夜学はいろいろな場所で開催していると思うが、そのうちの一つとして月花舎を選んでいただければと思う。
  • 第7回は、出版関係者で知らない人はいないレジェンド級の編集者である野上暁さんをお招きした。神保町での活動やご経験、そして現在携われている『神保町が好きだ!』の編集等についてお話しいただく。

▼ゲストスピーチ【野上暁】

  • 神保町を初めて訪れたのは1962年。大学生の頃からの長い付き合い。白山通りの三幸園は当時からあって、夜中によく食べに来た。いまの住友銀行の前あたりに「はとや」という喫茶店があって、東京オリンピックの時にカラーテレビがあるというので開会式の時に見に行って、外に出たら空に五輪のマークが浮かんでいたので感激したことがあった。
  • 1967年に小学館へ入社し、今年創刊100周年を迎える雑誌『小学一年生』に配属。その後、40数年在籍した。存命の『小学一年生』編集長では自分が最年長ということもあり、昨年から取材を受けたりしている。
  • 2006年に発刊された『神保町が好きだ!』は、「本の街・神保町を元気にする会」がブックフェスティバルや古本まつりに合わせて年に1回、機関誌として無料で発行している。自分が関わり始めたのは10数年前から。
  • 『神保町が好きだ!』2011 第5号の表紙は、神保町の街並みを自分でデザインし、特集の「作家が語る・わたしと神保町」も、人気作家5名(浅田次郎、奥本大三郎、角野栄子、出久根達郎、森絵都)へインタビューを行ない自分でまとめる等、頼みやすい方に全て無料で協力をお願いした。
  • 出久根さんは真面目な方で、自ら原稿を書いてくださったため、お礼として1,000円の図書券を2枚お渡しした。
    浅田さんからは、父親が戦後に神田駅の近くで事業をされていた関係でよく神保町に本を探しにきていた話や、高校生文学賞へ応募した際に編集者が神保町の喫茶店に連れて行ってくれていろいろな事を教えもらった話等を伺った。「僕の文学のデビューは神保町なんだよ」ともおっしゃっていた。
    『魔女の宅急便』の作者である角野さんからは、疎開先から東京に戻ってきて小岩に住んでいたが、大妻女子学園からの帰りに神保町の本屋さんを回って御茶ノ水から帰っていたという話を聞いた。
  • その他、「文士が歩いた神保町」として神保町の由来を書いたり、芥川龍之介と谷崎潤一郎の話を掲載したりした。大正時代だと思うが、谷崎はここの通りに面したところに1年間程住んでいて、芥川と谷崎が裏神保町のカフェ(当時は喫茶店ではなく呑み屋だった)で待ち合わせをしたとき、女給が谷崎のしていた赤い薔薇色のスカーフを素敵ねと褒めたことから、帰り際にチップをはずんで置いて行ったので、さすが谷崎は違うと芥川が書いているエピソードや、同じ頃に芥川が女給士を主人公にした短編(『葱』)の中で当時の神保町界隈の話を詳しく書いていること等を紹介した。
  • 当時の神保町周辺には、東洋キネマ、神田日活館、南明座、シネマパレス等10数館の映画館があり、神保町は本の街だけではなく映画の街だったという特集も行なった。その時に、「映画館は僕らの遊び場だった」というテーマで座談会を行ない、古本屋の店主(八木書店の八木さん、小宮山書店の小宮山さん、大屋書房の纐纈さん等)にも参加してもらった。
  • 岩波ホールの岩波さんへ人気のあった映画を伺ったり、大都映画のチラシを探していたら歌手の美空ひばりと同姓同名の女優がいたことが分かったりしておもしろかった。その他、矢口書店(映画演劇関連専門古書店)の矢口さんにお話を伺ったり、神保町シアターができたきっかけを小学館の相賀昌宏会長に聞いたりと、身近なところで思いついた人々を次々に訪ねて行った。
  • 『神保町が好きだ!』2013 第7号は岩波書店の創立100周年に合わせて、「日本の近代出版と神保町」を特集し、表紙は家にある本や雑誌を並べて脚立を立てて撮影して自分でデザインした。第5号から2、3冊をのぞいて表紙の撮影やレイアウトはほとんど自分でやってきた。
  • 神保町の一番古い出版社である有斐閣の江草さんや、三省堂書店の亀井社長、三省堂出版の北口社長、岩波書店の岡本厚社長(当時)に話を聞いたり、小学館が創立された頃の話を相賀昌宏会長に教えてもらったりもした。
  • ブックフェスティバルのタイミングに合わせた関連イベントとして、中村敦夫さんに『朗読劇 山頭火物語』をお願いしたこともある。
  • 神保町には鴎外、漱石、子規、一葉から太宰治まで本当に多くの作家たちが出入りしていたので、「文士が歩いた神保町」という記事等も掲載したことがある。
  • 中央大学で吉田健一教授の文学概論を取っていたが、吉田教授はランチョンで一杯ひっかけてから授業に来ていると聞き、実際に見に行ったことがある。当時のランチョンの1階は土間のようになっていて古い建物だった。 
  • 明治大学で実施した連続講座では、『神保町が好きだ!』の特集に合わせていろいろな方々に講演をお願いした。「日本の近代出版と神保町」では、有斐閣や三省堂の社長にも来てもらい、岩波の社長には明治大学のホールを使って講演をしてもらった。 
  • 『神保町が好きだ!』2015 第9号の特集は「神保町をデザインする! 女たちが語る神保町の今とこれから」というテーマの座談会のほか、共立女子大学の学生たちが演習課題としてまとめた。
  • 雑誌『漫画少年』は、GHQにより公職追放された元『少年倶楽部』編集長の加藤謙一さんが戦後の出版ブームの中で自分の本を作りたいと淡路町に事務所を借りて創刊し、そこに手塚治虫が『ジャングル大帝』や『火の鳥』を連載したことから、『漫画少年』に後の漫画家たちがみんな集まった。
  • 少年週刊誌3誌の編集長との鼎談を行ないたいと『週刊少年サンデー(小学館)』、『週刊少年マガジン(講談社)』、『週刊少年ジャンプ(集英社)』へ声をかけたが、当時、競争誌に対するライバル意識が強かったジャンプの協力が得られず2社だけで行なった。
  • 鹿島茂さんの『神田神保町書肆街考: 世界遺産的“本の街”の誕生から現在まで』を特集にして対談をしてもらったり、出版社のPR誌(『図書』『波』『ちくま』等)の歴史と現在というテーマで明治大学の飯澤先生と各出版社の編集長との座談会を行なったりもした。
  • 近現代の子どもの本の歴史を見ると、多くの作家を育んだ投稿少年誌『穎才新誌』や、明治期を代表する雑誌『小国民』も神保町から始まっている。最初の絵本と言われている『日露戦争ポンチ』シリーズが冨山房から出ているが、日露戦争を題材にした漫画仕立ての絵本になっている。その後も、中西屋の絵本や学年誌の小学館、『キンダーブック』のフレーベル館、絵本の福音館、あかね書房、岩崎書店、理論社等、子どもの本の出版社が続々と神保町で開業してきた。
  • 『神保町が好きだ!』2022 第16号では、「神保町・辞書と事典のものがたり」を特集した。
  • 『神保町が好きだ!』2023 第17号では、「古書と神保町の150年 神田神保町はいかにして”古書の聖地”となったのか」を特集した。
  • 昨年、日本ペンクラブが「本の街・神保町を元気にする会」へ企画を提案し、「文士が歩いた神保町」の中から鴎外・漱石・一葉の3人を取り出し、11月4日に「鴎外・漱石・一葉の神保町」と題したイベントを行なった。この3人は5歳ずつ年が離れており、近代文学の草創期にそれぞれ系統の異なる作品を作ってきたところがある。定員は1,000人だったが、2~3日で満員になり、500席追加したがそれも満員になった。通常、無料のイベントは5~7割程埋まると良いくらいだが、大盛況に終わった。

▼懇談会(参加者自己紹介と感想)

  • 大阪大学で百科事典の研究をしている。東京文化資源会議にも事務局として携わっている。
  • 初参加。神保町へは学校帰りに寄ったり、父に連れられたりしてよく来ていた。
  • 元・東京新聞勤務。「神保町を元気にする会」が創設された頃に仲間に入れてもらい一緒にイベントを行なっていた。神保町には思い入れがあるため去年から参加している。夜学は非常に楽しい会。 
  • 初参加。神保町生まれで、実家の薬屋へ編集者の方がよく来ていた。神保町を盛り上げようとしてくださり年配者たちも喜んでいる。自分も盛り上げるお手伝いができればと思い参加した。
  • 一昨年からひとり出版社を始めた。昨年、小学館の社長の講演会が神保町であり、その頃から参加するようになった。都立九段高校出身。神保町は学校帰りによく来ていたので思い入れがある。
  • 小学館に勤めていた。すぐ近所に住んでいる。現在、千代田区の文化財保護調査員をしている。神保町についていろいろ知りたい。
  • 初参加。「神田カレーグランプリ」を主催し、食から神保町を盛り上げようとイベントを行なっている。夜も元気な街にしたい。野上さんのお話を聞いて、昔はワクワクする街だったのだと改めて感じた。今もワクワクするコンテンツはたくさんあるため、それを広げていくお手伝いをしたい。ディズニーランドへ行くよりは神保町を一日歩いた方が楽しいと思う人間。皆さんと一緒に盛り上げていきたい。
  • 80~90年代に神保町でデザイン事務所をしていた。自宅には週に一度帰宅する程度でほとんど神保町に住んでいた。今は環境NGOの代表をしている。今年中に、神保町で子連れの街歩きを実現させたいと思っている。
  • 武蔵野美術大学空間デザイン学科の学生。神保町は古いものが残っているのが魅力的。もっと知りたいと思い参加した。
  • 地元が上野。最近、神保町の魅力に気づき週末ごとに来ている。友人にも紹介できるよう神保町の知識を得たいと思い参加した。
  • 東京文化資源会議の事務局を担当。本にしかない魅力を大事にしていきたいと思い、当プロジェクトを始めた。本職では本を超えたデジタルの新しい構成物を作るプロジェクトに携わっている。
  • 新卒で務めた銀行が竹橋にあったため、神保町にはほぼ毎日通っていた。当時から比べると閉店したお店もたくさんあるが、最近は新しいお店もできているので楽しみたい。
  • 専修大学生。神保町をテーマにした雑誌を製作中。今月中に出来上がる予定。
  • 「本の街・神保町を元気にする会」と神保町ブックフェスティバルの事務局を担当。とても楽しく仕事をしている。野上さんのファンとして参加した。
  • 古書店の店主をしている。昭和13年、神保町生まれ。兵庫県の明石に疎開していたが、戦後、神保町に戻ってきて錦華小学校を卒業した。
  • 浪曲が好き。終活で山ほどある本をどう処理していいのか困っている。引き続き今後も参加したい。
  • 初参加。共立女子中学校の教員。現在、中学・高校で探求活動が盛んに行なわれており、街について調べる仕事にも携わっている。共立女子中学では、授業の一環で「神保町に中高生が来たくなるような企画を考える」活動をしている。中高生にも神保町が好きだと言っている人は多いので皆さんにもご紹介したい。
  • 大学進学をきっかけに神保町の魅力を知った。神保町研究家のスーザン・テイラーさん等、神保町に詳しい方への取材を通じて神保町の魅力を学んでいる最中。皆さんとの懇談を通じてさらに知識を深めたい。
  • 千代田図書館勤務。35年のキャリアのうち、18年間、図書館の現場にいた。神保町の魅力を探索しながらこの街の良さをもっと知っていきたいと思っている。以前から『神保町が好きだ!』を愛読していたので、今日は楽しく嬉しくお話を聞かせていただいた。

▼次回に向けて

  • 次回は3月18日(火)。五十稲荷神社の宮司である鳥居繁さんにお越しいただく。

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